はじめに
はじめまして、営業部の岩田です。
弊社では、超低遅延コーデック「HLDシリーズ」と無線機を組み合わせた、超低遅延映像伝送ソリューションを提供しており、無人重機のリモート操縦・イベント会場のケーブルレス運用など、用途に応じて最適なシステム提案を行っています。
本記事では、新製品の 60GHz無線機TerraNet(テラネット) と HLD-5000 を組み合わせた無線伝送検証の実施内容と結果をご紹介いたします。
今回の検証は
- TerraNet輸入元:株式会社 理経 様
- HLD-300Cユーザー:株式会社 共立映像 様
と共同で実施いたしました。
検証を実施したきっかけは、HLDシリーズユーザーでもある共立映像様からの相談でした。 共立映像様では、花火大会、ライブなどのイベントでHLD-300Cと無線機を組み合わせた映像伝送を数多く手掛けています。現在使用中の4.9GHz無線機が周波数再編により、数年先には使用できなくなってしまうため、その後継となる無線機を探したいとのことで、今回の共同検証に至りました。
今回利用するTerraNetは、RADWIN (ラドウィン)社が製造し、日本代理店の理経様にご提供いただきました。本製品は、無線の免許取得や申請なしで使用できる60GHz帯をサポートし、最大1kmの伝送距離性能を実現します。60GHz帯は電波干渉リスクが極めて少ない周波数帯のため、大勢の人が集まるイベント会場での運用が期待されます。
今回の検証の目的は「60GHz帯の無線機TerraNetが4.9GHz帯無線機の後継となりうるかどうか、超低遅延映像伝送を実施して確認すること」です。
実施概要

| 実施日 | 2025年11月12日 13:30~15:30 |
| 実施場所 | 多摩川河川敷 |
| 天候 | 曇り、湿度38%、風速2m/s、気温13℃ |
| 使用機材 | 無線機:TerraNet V120(親機)、V40(子機) コーデック:HLD-5000E(エンコーダ)、HLD-5000D(デコーダ) |
| 映像ソース | エンコーダ内蔵のカラーバー |
| 伝送レート | 60Mbps |
| 親機と子機の距離 | 約470m、約740m |
| 計測項目 | 実施時間、距離、伝送レート、ジッター、遅延時間、RTT、電波強度 |
| 無線機の設定 | ch4:64.800GHz、FULL帯域2.160GHz |
| 無線機の設置角度 | V120:水平120°,垂直50°、V40:水平40°,垂直40° それぞれ三脚+アルミポールで2.5mの高さ |
当日は遠距離伝送が可能な場所を探し、レーザー距離計で計測したところ700m以上の伝送が可能 と判断できたため、多摩川河川敷を実験場所として決定しました(河川敷利用にあたり、国土交通省 京浜河川事務所に使用届を提出し、許可を得ています)。
映像ソースは肖像権の観点から、カメラは使用せずに、エンコーダ内蔵のムービングカラーバーを使用しました。カラーバーが常に動いているためフリーズ判定が容易であり、検証に最適です。伝送レートは4K伝送を想定し、TS 60Mbpsとしました。
子機V40の設置位置を決めた後、見通しが確保できる地点を探しながら、親機V120を設置しました。計測は図2に示した地点で、2回実施しました。


計測できるギリギリのポイント(親機②回目の場所から先は工事中のため立入禁止)まで歩き、親機②の地点に設置しました。距離は約740mで、子機側の人はゴマ粒ほどでなんとかいる場所が分かる程度でしたが、大雑把にアンテナの向きを向けると、簡単に接続ができました。

使用機材詳細
① TerraNet V120(親機)/V40(子機)
非常にコンパクトで、B5ノートPCの約半分ほどのサイズです。重量は695gと軽量で、ポールへ取り付けても撓みが生じず設置が容易でした。専用GUIにより電波強度や機器間距離を確認可能です。

② HLD-5000E/HLD-5000D
1/3Uサイズの 4K対応・超低遅延コーデック(コーデック遅延 20msec)。IP伝送時の ジッター/パケットロス/遅延時間 をGUIで確認でき、さらに専用アプリHLD Watcherにより状態推移をグラフ表示できます。HLD-5000には、新機能として、エンコーダ、デコーダ間の遅延計測機能が搭載されました。こちらは時間の同期合わせはコーデック間で自動的に行うので、GPS信号などは不要で簡単に計測できます。


計測結果と考察
計測結果は以下の通りです。
| 計測 回数 | 時間 | 距離 (m) | レート (Mbps) | ジッター 最大値 (msec) | 遅延 最大値 (msec) | RTT 最大値 (msec) | 電波強度 (db) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1回目 | 14:14 ~14:23 | 470 | 60 | 12.57 | 41 | 1.2 | V40子機:-64 V120親機:-64 |
| 2回目 | 14:44 ~15:05 | 743 | 60 | 15.42 | 42 | 2.67 | V40子機:-67 V120親機:-64 |

① 無線区間の遅延時間=ジッター(JITTER)
映像伝送の状況はHLDシリーズ内蔵の伝送状況可視化ツールHLD Watcherを利用しました。 無線でここまで安定したジッター1を示すのは非常に優秀といえます。図5では水色の折れ線(Media Jitter)がジッターの推移を示しており、最大値は16msec以下で推移していることがわかります。
② 伝送レートとパケットロス
TerraNetの最大帯域の仕様は 2.3Gbps のため、60Mbps伝送は余裕がありました。パケットロスは何とゼロ。映像の乱れもなく、安定した映像伝送が行えました。パケットロス対策のためのFEC2なしで安定動作が可能でした。 ここで、FECを利用するデメリットは下記が挙げられます。
- 伝送レートの増加:冗長パケット生成により10~25%程度伝送レートが増加
- 遅延時間増加:演算のために、パケットを蓄積保持しておく必要が生じるので、相応の受信バッファ設定が必要となり遅延が発生
FECなしで安定動作できる=低遅延での映像伝送が可能となります。
③ 伝送距離
今回の検証では、工事の影響による立入禁止区域の影響により、最大約750mまでの測定に留まり、伝送限界点の探索には至りませんでした。今後、限界点の調査を行いたいと考えています。 TerraNetは、子機 ⇔ 親機 ⇔ 子機 ⇔ 親機 のように中継構成をとることで、さらなる伝送距離の延伸も可能です。 TerraNetの輸入元である理経様からは、シミュレーションでは1㎞時点でのスループットが400Mbpsであり、映像伝送の観点において、十分な帯域が確保できるだろうとのコメントをいただいています。
各社コメント
株式会社理経 岡本様
無線機の方向調整は実施せず、固定設置した子機V40があるおおよその方向に、親機V120無線機を向けただけで、とてもスピーディーに無線インフラを構築できました。試験時の無線強度は、無線機へGUIアクセスすることにより確認ができます。また、以下の表にまとめた無線シミュレーションと本試験結果を比較しますと、適切な結果が得られたものと推測されます。 ビームホーミング(自動方向調整機能)をサポートしておりまして、適切に動作していることも結果から確認できるものと考えております。
| 距離(メートル) | シミュレーション時(dBm) | 実測値(dBm) |
|---|---|---|
| 470 | V120:-63,V40:-66 | V120:-61,V40:-64 |
| 743 | V120:-68,V40:-71 | V120:-64,V40:-67 |
この度の接続距離としては、743mまでとなりましたが、TerraNet製品の最大パフォーマンスとしては1㎞程度の接続が可能です(※晴天時)。 図6は1㎞接続時のシミュレーション結果です。1㎞時点のスループットは400Mbps(上り/下り合計)となります。

但し、60GHzの周波数帯は降雨の影響を受ける特徴を持っており、降雨時も使用する場合は、予め無線機間の接続距離を短めに設計するなどの対策が必要となります。 降雨状態を考慮した無線シミュレーションも可能です。実際にご利用される環境に応じて適切な無線モデルの選択、設定、距離等をご提案致します。
結びに、エンコーダ製品が送信するデータ及び映像を伝送することは、一般的な通信データ(インターネットアクセス等)と比較し、大容量データであり、且つ伝送路の安定性が強く求められる特徴があるものと考えております。その上で今回の結果は、非常に良好な結果を得られたものと考えております。この度、ご評価の機会を頂きましたアイベックステクノロジー様、ご協力頂きました共立映像様に感謝申し上げます。
株式会社共立映像 菅原様
2024年12月に、4.9GHzアクセス無線の再編が進み、2030年3月末をもって利用できなくなります。これに伴い、弊社が今まで運用にしていました無線機器の運用ができなくなることを鑑み、後継となる無線を探しておりました。
この度はアイベックステクノロジー 岩田様、理経 岡本様には無線伝送テストの場を頂きありがとうございました。このテストは弊社が現在運用している4.9GHz無線機の後継機選定の一つとしてお願いしたものでもありました。また低遅延と安定性で有能なHLDシリーズのコーデックの用意もいただきスケジュール調整から場所選定までいろいろご面倒おかけした次第ですが、この場をお借りし御礼申し上げます。
設置利便性の観点から、無線機の親機・子機ともに重量がとても軽く700g弱ということで、インシュロックを使用して簡易的な設置でしたが、一時利用に関しては全く不安も問題もなく取り付けは容易でした(常設とする場合は専用金具もあるようです)。
LAN回線はPoEインジェクターを通し接続し、DATA回線にエンコーダ/デコーダをイン・アウトするだけ。 指向性はありますが、120°ということで一方向であればほぼそちら方向に向ければ通るという状況で、方向狙いなどの難しい調整もなく通信できることに驚きました。それなりに方向を変えてみましたが、こちらも120°という指向に安定度を感じることができました。通信距離も750m以上の実績があるということで現行業務では十分な利用価値を感じました。
他社機器との比較という観点から、現在弊社で運用している機器は、25GHz無線が指向角4°重量は2.5Kg、4.9GHz無線がパネル使用で指向角17°重量は400g程度ですが、無線機本体とアンテナが別で専用同軸で接続しBPF(Band-pass filter)3も接続すると全体重量は2.5kg程となります(無指向性オムニアンテナの運用もあり)。 それぞれを現場で組み立てる運用になる複雑さもありますが、最も重要なのは無線免許(陸特3級以上)が必要であるということで、設置時の調整に時間と経験が必要となっています。またスループットは両機とも150Mbpsです。
他社の60GHz機器も拝見したことがありますが、大きさや形状がいかにも通信機器といったものであったり、取扱いにも面倒さを感じていました。しかし、このTerraNetは非常にコンパクトで重量も軽くスマートで、また指向角も広いため設置及び運用が容易であること、スループットは2.3Gbpsもあること、チャンネルの選定も可能であることは非常に運用しやすいことを確認できました。
60GHzアクセス無線で無指向性のアンテナが無いのが残念です。容易に運用可能なことは体験できましたが弊社の運用上、移動体としても求められる事があるためそれが如何なものかを今後実験してみたいと考えます。60GHzアクセス無線運用に関しては無線免許が不要であることも助かります。
最後に
今回の検証では、実施場所の確保と現場(草むらの中)での計測に大変苦労しました。 ご協力頂きました、株式会社共立映像 菅原様・山本様、株式会社理経 岡本様に深く感謝申し上げます。
Footnotes
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ジッターとは、送出時間に対する受信時間の揺れの事を示します。 有線・無線ともに、程度の差こそあれ、受信するパケットの到着間隔は不揃いになります。ネットワーク網からの受信パケットを蓄積すること無く、そのままデコーダ・コアに供給したのでは、パケットの到着間隔が空いた場合には、ストリームの枯渇 が発生し、デコード処理に支障が出てしまい、正しいデコード処理ができません。このため、IP伝送において、このジッターを吸収するための「受信バッファ」は欠かすことができません。 例えば、ジッター100msecだった場合、デコーダでは、100msec以上の「受信バッファ」を必要とし、その分、映像伝送遅延も増加します。よってジッターは小さく、かつ安定していることが重要 です。 ↩
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FEC(Forward Error Correction)とは、送信側では、オリジナルパケットを用いてFECパケット(誤り訂正用の符号)を生成。 受信側では、オリジナルパケットとFECパケットを用い、欠落したパケットを補間するデジタル信号処理技術です。 ↩
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周波数のバンドパスフィルターの略。 ↩