はじめに
こんにちは、アイベックステクノロジー営業部の榎本です。アイベックステクノロジーは、株式会社フジタ様と共同で、Starlink衛星通信回線を用いた映像のリアルタイム伝送実験を行いました。
今回はブログにて、本実験の結果をご紹介いたします。
Starlinkを活用した低遅延映像伝送の需要
Starlinkの可搬性を活かすことで、被災地復興作業等の一時的な作業現場での活躍が期待されています。作業現場おいては、人が常時立ち入ることが危険な場合があります。その際に、無人の重機にカメラとエンコーダを搭載し、現場から離れた安全な場所から、重機に取り付けたカメラ映像をみながら重機の操作を行うケースがあります。
映像を遅延なく送ることで、作業効率の向上やオペレータの属人化を防ぐ効果が期待されます。遠隔操作に関して、映像伝送におけるEnd to End(カメラからモニタまで)の遅延時間は200msec以下になることが望ましいとされています。
実施内容
1.条件
実施日 | 2024年7月2日、3日 |
実施場所 | 東京都西多摩郡瑞穂町箱根ヶ崎(株式会社フジタ様倉庫内) |
天候 | 晴れ(真夏日240地点弱。猛暑日3地点) |
2.目的
Starlinkを活用した、リアルタイム(UDP/RTP)映像伝送における遅延時間の計測と、安定に伝送可能なレートを測ることで、Starlinkにおけるリアルタイム映像伝送実現のための適切なパラメータと課題を探ることを目的としました。
3.検証内容
- 映像の疎通確認
- TSレートの上限値、適正値の確認
- ジッターの遷移やパケットロス発生状況の時系列データ取得
- 遅延計測器を用いたエンコーダデコーダ間の遅延計測
- パケット欠落対策の実施
4.主な使用機材
2Kコーデック | HLD-300C |
映像伝送状況の可視化ツール | HLD Watcher |
5.システム構成
今回は、映像信号源として2Kカメラ、伝送路としてStarlinkを使用しました。コーデック間に遅延測定器を設置し、映像信号がエンコーダに入力されてから、デコーダで出力するまでの時間を計測しました。
映像伝送状況を可視化するためのツール「HLD Watcher」は、デコーダモードで起動しているHLD-300Cに接続することで、Webブラウザからの閲覧が可能となります。1
6.結果
それぞれの計測は5分間ごとに行い、以下の項目について計測を行いました。
- TSレート(TS Rate)
- ジッターの最小値、最大値(Jitter min/max)
- パケットロス数(Lost count)
- コーデック間の遅延時間(Latency)
- デコーダに設定したバッファ時間(Buffer)
- 伝送路遅延
結果は以下のテーブルのとおりです。
a.TSレートについて
TSレートは128kbpsから25Mbpsまでの設定で伝送しました。TSレート10Mbps以下であれば、パケットの欠落は発生していたものの、映像を途切れなく伝送する事が出来ました。TSレートが15Mbps以上では、パケットの欠落が非常に多く、デコーダに対して正常な量のトラフィックが流入しておらず、映像の乱れが散見されました。
b.伝送路遅延ついて
Starlink上で発生する伝送路遅延は、
(遅延計測器で計測した値)-(Bufferに設定した値)-(コーデック遅延の10msec)
で表すことが可能です。TSレートによる違いはあるものの、Starlinkにおける伝送路遅延は43~65msec程度でした。
c.ジッターについて
ジッターに関しては、以下の2つの事象が見られました。
- TSレートがあがると、相対的にジッターが増加する
- 30秒の周期ごとにジッターが多くなり、このときパケットの欠落も発生する
7.パケット欠落対策
TSレート5Mbpsの際に、FEC(前方誤り訂正)を用いたところ、パケットロス救済率は57%程度でした。
FECに加えて、ARQ(自動再送要求)を用いてみたものの、欠落を100%補完することはできませんでした。 HLD Watcherのグラフより、FEC使用時には周期的なジッターの発生と同時に、パケットの欠落と重複が発生していました。
考察&まとめ
TSレートが高くなると、正常なトラフィック量がデコーダへ届かず、ジッターが増加する事象が観測されました。要因としては、トラフィック量が増えたことによる、パケット処理時間の増加が可能性の一つとして考えられます。よって、映像伝送時にはこの事象を考慮し、デコーダのバッファ時間を設定する必要があります。
今回、Starlinkを活用したリアルタイム(UDP/RTP)映像伝送は、伝送レートの上限やジッターの変動などの課題が残りましたが
- TSレート10Mbps以下
- コーデック側のバッファを適切に設ける(200msec以上)
などの設定を行うことで、リアルタイム伝送の用途で使用することが可能と思われます。
検証に関するレポートは以上となります。検証結果や製品、検証のご依頼等につきまして、お気軽にお問い合わせください。
最後に、今回検証にご協力いただいた株式会社フジタの川上様にお礼申し上げます。
Footnotes
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コーデック機器の制御は、L2スイッチと制御用ポートを接続し別ネットワークのPCで操作しました。また、エンコーダ、デコーダのIP Addressは、DHCP機構によりスターリンクルータからグローバルアドレスを取得しました。 ↩