高性能FPGAアクセラレーションカード「IPAC-1000」
当社の主力事業にかかせないFPGA(Field Programmable Gate Array)は、並列処理性能に強みを持つ半導体デバイスです。用途ごとに何度でも回路の書き込みができるFPGAの特性を生かし、細やかなカスタマイズが必要とされる分野で活躍しています。近年はCPUやGPUの処理速度を向上させる外部デバイスとしての活用が期待されています。
IPAC-1000はAltera社が製造するFPGAシリーズの中で、最新1のAgilex7Mを搭載したアクセラレーションカードです。主な用途としては、大規模な計算処理を必要とする産業機器での利用を想定しています。
当社は2021年からIPAC-1000の開発を開始し、2024年にエンジニアリングサンプル品を出荷、2025年6月に製品を正式リリースしました。

最高難易度の熱設計と部品実装
IPAC-1000の開発は、当社にとって挑戦の連続でした。FPGAにおける回路設計においては豊富な経験があり、これまで数々のアクセラレーションカードを利用してきましたが、アクセラレーションカード全体の設計、そして製造は初めての取り組みでした。
IPAC-1000に搭載されているFPGAは、高速シリアルインターフェースは最大400Gbps×3、PCIeはGen5×16に対応、デバイス内に超高速データ転送が可能なHBM2eメモリを32GB所有しています。ピン数は4000越え、消費電力はFPGAだけで最大250W級です。

IPAC-1000は非常に高難易度の製品であり、生産工場の選定も困難を極めました。しかし、大変幸運なことに、安定的な生産体制、高品質、手厚いサポートと保守体制、技術力を持つグループ会社の国内工場にご協力いただくことができました。
開発の中で、大きな課題のひとつが「熱設計」でした。ユーザーからは「サーバーラック2ユニット分のスペースにIPAC-1000を4枚搭載したい」との要望をいただいていたため、カードの縦横サイズはPCIe規格を準拠しつつ、幅をPCIeスロット2つ分に収める必要がありました。形状に厳しい制約がある中で、FPGA単体で最大250Wもの消費電力に伴う発熱に対応する必要があり、難しい熱設計が要求されました。
この課題に対して、熱解析シミュレーションや、特注ヒートシンク(放熱部品)の設計など、当社では対応しきれなかったプロセスを、グループ会社の機構開発部門の豊富な知見により支援いただきました。
IPAC-1000の生産に向けて、グループ会社の工場からも多大な支援をいただきました。IPAC-1000の基板は、1枚も無駄にできないほど非常に高価です。そこで同工場では、実装精度を上げようと、模擬基板を作成した上で、実装精度の向上に励んでくださいました。
さらに、IPAC-1000の基板の厚みは、超高速シリアル伝送路をはじめとする高密度実装を実現するために3.2mmもあり、一般的な基板の2倍以上にもなります。実装の難易度も極めて高く、従来の製造委託先では断られてしまう要件ばかりでしたが、同工場の皆さまには快く引き受けていただきました。
製品ロゴおよびカバーデザインにおいても、グループ会社の意匠設計部門に支援いただきました。サーバーに挿した際にさりげなく見える社名が素敵で気に入っています。
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IPAC-1000のユーザーからは、同じ製品を長期間安定して供給して欲しいというニーズがあります。グループ会社の国内工場で製造を行う体制は、IPAC-1000の大きなセールスポイントであり、当社だけでは決して生み出すことができなかった製品価値となっています。
IPAC-1000の導入例
IPAC-1000のファーストユーザーは理化学研究所様(以下、理研)です。理研では国産量子コンピュータの実用化に取り組まれており、内閣府が推進するムーンショット型研究開発制度の目標6「誤り耐性型汎用量子コンピュータ」における「スケーラブルな高集積量子誤り訂正システムの開発(グラント番号: JPMJMS226A)」に参画しています。
量子コンピュータは非常に繊細で、外部要因等のわずかな影響によって計算誤りが生じやすい特性があります。そこで誤りを自動的に検出・修正しながら処理を継続できる、誤り耐性を備えた次世代コンピュータの開発が進められています。
この誤り訂正処理には、大規模な計算能力、低遅延、高速データ転送が求められるため、当社のIPAC-1000が採用されました。 2025年9月にはリコンフィギャラブルシステム研究専門委員会にて、理研との共著論文2を発表しました。
他にも、国立大学法人東北大学様では、組合せ最適化問題を対象とした量子アニーリングシミュレーションの FPGA 実装、ロボットや物流システムにおける経路最適化で活用いただいております。より最適な経路を算出することでピッキング作業を効率化し、物流業界の課題解決に貢献します。
ユーザーからのコメント
理研R-CCSプロセッサ研究チーム チームプリンシパル 佐野健太郎様
理化学研究所計算科学研究センター(以下、R-CCS)は、量子誤り訂正ハードウェアの研究を目的として、IPAC-1000を32基連携したFPGAクラスタを導入しました。 FPGAを用いた量子誤り訂正アルゴリズムの実装や検証において、IPAC-1000は安定した動作と高い信頼性を示しており、これまでトラブル無く運用することができています。また、広帯域の400Gbpsネットワークポートを3つ搭載する他、広帯域のPCIeインタフェースを備えるなど、高速なデータ転送が可能であり、高性能処理向けカスタムハードウェアの研究基盤として非常に優れた製品だと評価しています。 同研究では、IPAC-1000にR-CCSが開発したFPGA Shell(FPGA上で様々な機能を動かすための基本システム)を実装し、FPGAの潜在能力を引き出しながら、量子誤り訂正専用回路の開発を進めることができました。
アイベックステクノロジーには、技術的達成目標に関する相談に乗っていただき、そのおかげで的確な研究計画を立案することができました。特にIPAC-1000に実装するFPGA Shellの構成については、研究背景を踏まえた実践的な提案をいただき、単なる製品提供にとどまらない付加価値を感じました。同社には技術力や経験を有するエンジニアが在籍しており、その他の回路設計委託業務などに関しても、技術提案、仕様調整、スケジュール管理などを柔軟かつ迅速に対応いただけるため、研究の進行を妨げることなく円滑にプロジェクトを推進することができ、この点を高く評価しています。
今後も、世界に通用する機能・性能・品質を備えたFPGA製品、そして研究者や開発者の要望に寄り添った製品開発を期待しています。是非これからも、研究者と伴走するような手厚い支援によって、製品の価値を一層高めていただければと思います。
最後に、FPGAを活用したリアルタイムの量子誤り訂正は、R-CCSが目指す誤り耐性型汎用量子コンピュータの実現に向けて重要な課題の一つです。次の5か年プロジェクトでも、高信頼かつ高性能なIPAC-1000を活用しながら、実証実験などのマイルストーンを一つずつ達成し、基礎研究から応用研究、そして実用化へと繋がる成果を創出していきたいです。

類似製品との差別化戦略
高性能・高品質なハードウェアを提供するだけでは、いずれ他社に追いつかれ、優位性を保てなくなる恐れがあります。そのため当社では、ハードウェアの面だけでなく、FPGA内部の回路設計や、開発環境ソフトウェアの整備に取り組んできました。特に、FPGA内部の回路設計には、理研と共同で取り組んでおり、研究者が利用しやすい機能の拡充を図っています。
開発環境ソフトウェアについては、OFS(Open FPGA Stack)と呼ばれる、FPGAを抽象化するためのオープンソースSW/HW Stackに対応しています。既存のOFSをベースに、IPAC-1000用OFSを開発しました。
また、IPAC-1000はoneAPI環境にも対応しています。oneAPIとはIntelから提供されるヘテロジニアスコンピューティング実行環境であり、高位合成ツールを利用することで、開発期間の短縮とデバイス抽象化による移植性向上を実現できます。
世界中で選ばれる製品を目指して
競合との差別化をはかるべく、開発環境ソフトウェアの整備を進めてきたと前述しましたが、これが功を奏し、日本国内にとどまらず海外からもIPAC-1000の引き合いをいただいています。
世界の技術を牽引する、研究機関をはじめとする組織では常に最高性能の計算機を必要としています。 当社の製品が採用候補として選出されていることは、非常に光栄なことです。日本、並びに世界の科学技術の分野において、なくてはならない存在にあり続けるべく、研鑽を続けてまいります。
IPAC-1000の開発と製造には多くの方にご協力いただきました。ご尽力いただきましたグループ会社の皆様、本記事の執筆のあたりご協力いただきました理化学研究所様に深く感謝申し上げます。